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障害者映像文化研究所

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映画「おかあさんの被爆ピアノ」

75年目の今、原爆と戦争の記憶を伝える姿勢を大切にした映画「おかあさんの被爆ピアノ」

 コロナ禍のもとで迎える75年目の敗戦の夏。数え切れない犠牲を生んだ戦争の中でも特筆される原爆の被害――十数万とも言われる死者、無数の負傷者、そして放射能による被ばく後遺症に苦しむ人々…。そのことを忘れぬために、貴重なる映画が新たに生まれている。
 「主人公」は昭和20年(1945年)8月6日に広島で被爆したピアノ――そのピアノたちを持ち主から託された調律師の矢川(佐野史郎)は、自ら運転するトラックに載せて全国を回り、演奏会を推進している。ヒロインの菜々子(20歳/武藤十夢:AKB48の12期生)は、幼稚園の先生をめざしているが、ある時、母の久美子(森口瑤子/1983年にミス松竹に選ばれ、その年の「男はつらいよ」でデビュー)が寄贈した被爆ピアノがありそのコンサートの情報を知り、東京の下町にある第五福竜丸記念館の会場に出かけて、その音色を体験する。
 自分の母親が被ばく2世であり、祖母・千恵子のことも詳しく知らされていなかった菜々子は、その真相を知りたくて、矢川に頼みこみ広島までトラックに乗せてもらい同行の旅に出る。
2年前に他界した祖母の実家が残されており、そこで古い写真や楽譜などの思い出の品々が見つかり、未知の記憶の謎を探っていく…。
 そこには、自分のルーツがあり、母が抱えていた悩みや葛藤があり、その根底には、祖母が背負っていた苦しみが隠されていたのである。

 脚本・監督は1968年生まれで、ノンフィクション系のTV番組を多く手掛けている五藤利弘。被爆ピアノのドキュメンタリーを担当したことを契機にこの映画を企画し、実在の調律師をモデルにして、広島の市民や組織の応援を得て完成させている。
「記憶し続けること、伝えていくこと」の大切さを胸に作られた本作品は原爆の問題に真正面から向き合い、好感の持てるオーソドックスな演出手法で、現代に生きる人々、とくに若い世代に対して、静かに問題提起している。
[劇映画/2020年/111分]〔2020年8月8日に東京封切し、順次全国公開(広島は7月先行)〕
                                【一般社団法人 障害者映像文化研究所 常務理事 中橋真紀人】
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アメリカ映画「パブリック 図書館の奇跡」紹介

コロナ禍の今に“公共”の意味を問う映画「パブリック 図書館の奇跡」

 アメリカの地方都市の中心部にある公共の図書館には様々な人が訪れる。同時に冬になるとホームレスの人たちが避難所として活用していたが、ある時、記録的な大寒波に際して、シェルター満杯で行き場のない事態に直面する。閉館時間が迫るも行き先のないホームレスの集団は退去せずに居座りを決意――これに共感したのがベテラン職員の主人公スチュアートで、彼らと共に自分の職場である図書館に立てこもる態度に出て波乱を巻き起こす。以前から上司たちに問題視されていた主人公の突出した行為に、館長、同僚たちは困惑した反応を見せるが…。突然の騒動に対処するために駆けつけた刑事や検察官、取材のTVリポーターなどが各々の思惑で「制圧」しようと動き出す。
 立てこもったホームレスのメンバーの抱える困難は、社会的な現実を反映したものであり、また様々な心身の障害により生じたものであることが見えてくる。
 そして、行政との対決姿勢を貫こうとする主人公は、対立劇の展開の中で、かつてホームレスに転落して、精神の病で苦闘した経験を有していたことが当局からメディアにリークされ、周囲の人々をも驚かせる。誤解と偏見が伝播する中で、警察の機動隊が出動しての突入・鎮圧の作戦開始のタイムリミットも迫ってくる。果たして、主人公とホームレスの人々は、どうなるのか…?予想外のエンディングはサプライズとハートに溢れたものに!
 主人公の抱える葛藤と苦悩、ホームレスの社会的背景、立てこもり事件に対する行政や市民の反応などが点描されて、観る者の共感を広げると同時に、「公共」の果たすべき役割について、シャープな問題提起を投げかける秀作である。コロナ禍の真っ最中に公開されたのは偶然ながらも意義深い。
 11年をかけて映画を生み出したのは、製作・監督・脚本・主演をこなすエミリオ・エステベス。1962年のNY生まれで、名優マーティン・シーンの長男で、チャーリー・シーンの兄貴でもあり、「セント・エルモス・ファイアー」(1985年)など80年代の青春映画で活躍。23歳で「ウィズダム/夢のかけら」で監督デビュー、ケネディ暗殺事件を題材にした歴史群像ドラマ「ボビー」(2006年)で高い評価を得ており、本作で監督7作目。
 ホームレスのメンバーや同僚女性、主人公の恋人などの脇役が個性的かつ存在感を発揮すると共に、物語の展開に味付けを効かせている。
[劇映画/アメリカ/2018年/119分]【原題「THE PUBLIC」】〔2020年7月17日公開〕
           〔一般社団法人 障害者映像文化研究所 常務理事 中橋真紀人〕

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記録映画「ハニーランド」

記録映画「ハニーランド ~永遠の谷~」

 話題の韓国映画「パラサイト」と同時に、アカデミー賞の国際映画賞(旧・外国映画賞)とドキュメンタリー映画賞の2部門にノミネートされた傑作「ハニーランド~永遠の谷」(88分)。まるでドラマのような状況展開のドキュメンタリーは、人間も大自然の一部だという真理を痛感させる。
 ギリシャの北に位置する北マケドニア共和国(旧ユーゴスラビア地域)の山岳地帯に暮らす中年の女性ムラトヴァは、視力を失った病気の老母と暮らしている。彼女はヨーロッパ最後の自然養蜂家であり、岩山の壁の蜂の巣から蜜を集めると共に、自宅の庭でも蜂を飼育している。その暮らしの掟は「半分はじぶんに、半分はあなたに」で、自然環境のもとで持続可能なライフスタイルを頑なに守っている。
 ところが、隣の空き家にトルコから、5人の子どもを連れた牛飼いの夫婦がトレーラーハウスで引っ越してくる。はじめは子ども達との交流を喜んでいた主人公だったが、隣家の夫が金めあてに養蜂を始め、街の商人に乗せられ蜂箱を増やし蜜を大量に収穫しようとすることで、関係が悪化する。彼のやり方を止めようとする主人公、生活費ほしさに無視する男とやむを得ず従う妻、とまどう子ども達。そこに、大自然の摂理がもたらす危機が…。
 3年の歳月をかけた撮影で捉えた高原地帯の四季の変化や、春の祭りに集う住民たちの音楽や踊り、伝統的なレスリングの試合など、壮大な歴史のなかで続く文化に心うたれる。カメラの存在を感じさせない、崇高さに溢れる画面が感動をもたらす。
 サンダンス映画祭のグランプリ、審査員特別撮影賞にも輝き、著名な映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を次々と獲得している。
[2019年/北マケドニア/88分]【原題「Honeyland」】〔2020年6月26日に東京封切、順次全国公開〕

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映画「水上のフライト」

パラ・スポーツを描く映画「水上のフライト」

 パラリンピック・スポーツの種目であるカヌーに挑戦する女性の姿を爽やかに描くヒューマンドラマ。走り高跳びの有力選手であった主人公は、オリンピック出場をめざしている時に、車にはねられる交通事故で下半身不随となってしまう。将来を期待されていた主人公は心も深く傷つき、やさしい母親(大塚寧々がチャーミング)の心配を撥ね付け、自らを孤独な生き方に追い込んでいる日々…。
 そんな彼女を思いやる亡き父親の親友(小澤征悦が好演)が、子ども達にカヌーを教えていたことから、昔のようにカヌーをやろうと誘ってくる。反発しつつも、幼き頃の体験を思い出し、カヌーに乗りこんでみる。しかし、車椅子の身体では、独りでカヌーに乗ることもできず、マヒのため、うまくバランスをとることも簡単ではなく、失敗を重ねてしまう。「失くしたものは足だけじゃない」と重い心を抱え込んでいたけれど、アスリートの気持ちがよみがえりトレーニングにのめり込んでいく。
 カヌー教室に参加している子ども達の中には、家庭の事情や不登校の問題など様々な困難を抱えている者もいるのだが、そんな子ども達が、障害を持ったことに負い目を感じていた主人公に「カヌーに乗れば、みんな同じだね」と偏見をもたずに接してくれる中で彼女も素直さを取り戻していく。
 爽やかな川の水面をスピーディーに走り抜けていくカヌーは、あたかも水上のフライトのように感じられ、漕ぎ手も観客も引き込まれていく…。
 主演はファッション誌モデル出身の若手女優で『セトウツミ』『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年)により新人賞を受けている中条あゆみ。実在のパラカヌー選手をモデルとした脚本を手がけたのは、ユニークで面白かった映画『超高速!参勤交代』(2014年)も担当した土橋章宏。監督は『ちーちゃんは悠久の向こう』(2017年)でデビューし『キセキ――あの日のソビト』などを手がける兼重 淳。
[2020年/日本/106分]【2020年6月12日より全国公開】

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記録映画「花のあとさき」

爽やかな余韻を残すドキュメンタリー「花のあとさき」

 深く心に響き渡るドキュメンタリーである。18年間にわたりNHKのカメラマンが秩父の山奥の小さな集落に通い続けた記録の集大成であり、1999年から2019年に6回の番組として成立した映像から生みだした1本のドキュメンタリーである。
 主人公は、1950年(昭和25年)に隣村から嫁いできた小林ムツさん(撮影時は70代~80代)というチャーミングなおばあちゃん。小学校を卒業後、生まれつきの強度の近視のため、秩父に残っていたという。2歳年下の夫(公一さん)と共に、永年、暮らした山中の畑を“山にかえす”として、花を咲かせる樹木を植えていく日々…。深い緑に囲まれた山肌の斜面に広がる花園の美しさは、人々を魅了していく。
 しかし、2009年にはムツさんが86歳で他界(夫の公一さんは2006年に81歳で他界)、隣人の農家の主人が2017年に88歳で他界すると、この集落は無人となった。
 その長い年月の流れを、ゆったりと伝えてくれる作品である。そこに流れている時間の独特な雰囲気は、日本の原風景と言えるもの――過日に終了したTVドラマ「やすらぎの刻(とき)」で倉本聰が描いた世界――その主人公の脚本家の手による山梨の農家の戦前から戦後の生活の点描と同じものであった。
 かつては、桑の栽培(養蚕)と炭焼き、造林(材木)で成り立った暮らしも出来なくなり、殆どの人が山を下りて町へ出ていく…。その土地に残り、段々畑でコンニャク芋と野菜を作り、杉林の手入れに精を出し、自給自足に近い生活――大自然の恵みに感謝しながら、その厳しい環境に合わせていく…。
 人々が山の中に築き上げた生活の場――それは機械もない時代に、手作業により生み出された道や石垣、畑――が住人の消滅により静寂の世界になり、自然に戻っていく点描として挿入される定点観測カメラの動画は印象的である。
 あるじの消えた村に咲き誇る色とりどりの花の美しさは、人間の営みを越えた大自然の偉大さを教えてくれる。コロナウイルス感染に苦しむ世界に対して、「人間も自然の一部」であることを痛感させると共に、静かな癒しを感じさせてくれる素晴らしいドキュメンタリーである。
 監督・撮影は、1969年生まれで、日本大学芸術学部映画学科を卒業してNHKでカメラマンとして活躍する百崎満晴。この作品が映画初監督となる。NRは、放送文化基金賞も受けている元NHKアナウンサーの長谷川勝彦。
[2020年/日本/記録映画/112分]【2020年6月よりシネスイッチ銀座にて公開中、順次全国公開】

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