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障害者映像文化研究所

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劇映画「せかいのおきく」

江戸時代、声を失ったヒロインと共に、底辺で生き抜く若者たちの姿を描く意欲作

 江戸時代の末期、貧しい暮らしの中で、自分たちの生きる意味を模索する若者たちの姿を、モノクロームの映像で描く異色作である。ヒロインは、武家から身を落とした父親と貧乏長屋で暮らす22歳のおきく。彼女は、父親が過去から引きずる争いに巻き込まれ、喉を切られ、命は助かるものの、声が出せなくなる。絶望した彼女は、長屋の部屋にひきこもるが、お寺で教えていた子ども達の切なる希望に応えて、習字を教える場に復帰する。
 彼女がトラブルに巻き込まれる直前から、知り合いになったのが、「おわい屋」という、民家の糞尿を集めて回る商売にいそしむ矢亮と、それを手伝うことになる中次。汚く臭い糞尿を集め担いで回る商売ゆえに、周囲から忌み嫌われている2人だが、必死に生きている彼らにヒロインは共感していく。さらに、無学を恥ながら、夢を模索する中次に惹かれていく。
 ヒロインのおきくの、生活の変転を、9つの短編から織り成すオムニバス映画である。何故、彼女が悲惨な成り行きとなったのか、詳しく語られないのであるが、経済状態が悪くなり、幕藩体制も行き詰まる時代のもと、いわゆる「循環型社会」の生活スタイルで、たくましく生きている庶民のエネルギーが滲み出ているドラマである。ヒロインが声を失ってから、必死に身ぶり手ぶりで、自分の思いを伝えようとする姿に心打たれる。
 ヒロインに、黒木華。その父親に佐藤浩市(三國連太郎の息子)、中次に、筧一郎(三國連太郎の孫)で、これは親子共演となっている。矢亮には、活躍が続く池松壮亮。脚本・監督に、「どついたるねん」(1989年)以来数多くの作品を生み、「北のカナリアたち」(吉永小百合主演/2012年)などでベテランの手腕を発揮する坂本順治。
[2023年/89分/劇映画]〔2023年4月28日封切、順次全国公開〕
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記録映画「アマダン号に乗って」

 セーヌ河畔に佇む木造船がデイケアセンターとなって、精神障害者の寄る辺となる情景を描く

 フランス、パリのセーヌ川の橋のそばに繋留されている平底船が、精神障害者のデイケアセンターとなっている。そこに通ってくる当事者たちの憩いのカフェでもある。コーヒーを飲み、音楽に興じ、語り合ったり、孤独のひと時を楽しんだり…。
 朝、スタッフの女性がオープンさせ、センターの準備に入る  独特な設計の船の、自動開閉する木製のブラインドを開けていくと、爽やかな陽光が差し込んでくる。
 メンバーやスタッフが揃うと、ミーティングが始まり、その日の活動やスケジュールが、話し合われる。誰もが自由に、自分の思いを語ることができる。また、毎週1回のシネクラブが主催する映画会が開かれており、10周年を迎えることから映画祭の企画が話し合われる。コロナ禍で、ワクチン接種をめぐる議論も…。
 時に、身体を動かすダンスの時間を設けるべきと強調する女性の主張がぶつけられることも…。一方、幾人かの当事者が、カメラに向かって、独り、心情を語り出す場面が次々と映し出される。
 また、このデイケアセンターで続けられている絵画のワークショップでは、好きなように絵を描いて、それを見せながら、自分の思いを語ることがアートセラピーとして実践されている。こうした様子が淡々と描かれていく…。
 病院の付属施設として開設されている、ユニークなデイケアセンターにカメラを向けた1951年生まれのベテラン監督ニコラ・フィリベールの狙いは、人間の生きる意味を見つめたのだろうか?船に乗って、どこに向かっているとイメージしたのだろうか?カンヌ国際映画祭で、あまたの劇映画を相手にする中で、最優秀賞に選ばれたのは、極めて現在的な理由だろうか?監督と長年にわたり交流する日本の配給会社が共同製作している。
[2022年/ドキュメンタリー/フランス・日本合作/109分]【原題:「Sur l’Adamant」】〔2023年4月28日封切、順次全国公開〕

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「9-NINE- 憲法9条は訴える」DVD販売

「9-NINE- 憲法9条は訴える」(2005年5月完成)
43分/日本語字幕付き

9条DVDジャケット表

「九条の会」の呼びかけ人9名全員が登場し、貴重な映像メッセージを収録した唯一のDVD。

2004年6月に発足した「九条の会」は、日本を“戦争のできる国”にしようと画策する動きに対して、平和憲法を守るために「一人ひとりができる、あらゆる努力をいますぐ始めること」を呼びかけました。
これは燎原の火の如く全国に広まり、各地で「九条の会」が作られ、多種多彩な取組みが続けられています。

 このDVDは、その一助として「九条の会」の方々のご協力のもとに2005年5月に製作され、上映普及が行われてきました。

 その後、安倍政権のもとで、日米共同作戦の強化など軍事協力が着々と進められる一方、国内では「安保法制」整備や「スパイ防止法」などの制定により、“戦争のできる国”づくりが行われ、岸田政権のもとでも「反撃能力」態勢の構築や軍備予算「倍増」(2023~2027年度に、防衛費と関連する経費を合わせてGDPの2%に達する予算措置を整える)計画も始まろうとしています。

 また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、核兵器の威嚇も含めた重大かつ深刻な危機を生み出しています。こうした危険な局面のもと、国民の不安を無視して、更なる軍備増強を進めようとする政権の動きに歯止めをかけ、平和で安心して暮らせる日本と世界を守るために、このDVDを改めて上映普及させることが重要だと考え、再度の展開を始めることにしましたので、皆様のご理解とご協力をお願い致します。(2023年5月)

≪出演者≫ 井上ひさし/梅原猛/大江健三郎/奥平康弘/小田実/加藤周一/澤地久枝/鶴見俊輔/三木睦子
(以上「九条の会」よびかけ人・五十音順)
       朴慶南(パク キョンナム/エッセイスト)/金子安次(中国帰還兵)
小森陽一(「九条の会」事務局長)/高田健(「九条の会」事務局)
パフォーマンス:松元ヒロ(スタンダップ・コメディアン)
朗読:根岸季衣(俳優)
◆協賛/りぼんぷろじぇくと[『戦争のつくりかた』マガジンハウス社刊・井上ヤスミチ(イラストレーター)]
◆監修/小森陽一(「九条の会」事務局長) 協力/九条の会   【新装版:企画協力『週刊金曜日』】
●製作/九条を守ろう!映像プロジェクト  企画:鈴木文夫/製作:中橋真紀人/監督:森康行/編集:古賀陽一
提供■(有)イメージ・サテライト 102-0074千代田区九段南4-3-3-606  imagesatellite@hotmail.com

価格(上映権付)3,000円(税別)
お申込み=メール、又はハガキにてイメージ・サテライトまで



いま甦る「平和への遺言」
今年3月26日、「イメージ・サテライト」の中橋真紀人プロデューサーが18年前につくったDVD『9-NINE-憲法9条は訴える!』をプレゼントしてくれた。「九条の会」呼びかけ人9人全員のメッセージが収録されたヴィンテージ・ストックだ。

3月3日に88歳で亡くなった大江健三郎さんは、9条の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」に言及し、「書いた人は、どうしても『希求する』という普通でない言葉を使いたかったのだということを、読み取る必要がある」と強調する。
戦死者たちの記憶に押し出されるようにして憲法を作った日本人が私たちの先輩で、彼らが希求したのが新しい社会・新しい国だという。
その「希求」を捉え直し、どう進めるかが、いま生きている人間の肩にかかっていると、大江さんは指摘する。深く心に響く言葉だ。

井上ひさし、梅原猛、三木睦子、奥平康弘、梅原猛、加藤周一、鶴見俊輔、澤地久枝、小田実の各氏の発言にも心打たれる。澤地さん以外は故人で、まさに「平和への遺言」である。

いま日本は再び「戦争ができる国」になりつつある。
それに歯止めをかけねばならない。
「このDVDは、役に立ちますよ」と言うと、中橋さんは新装版で復刻することにした。
「今度は字幕入りにしました。集会などで自由に上映してください。護憲運動をさらに広めましょう」と話す。
私も同感だ。DVDに込められた不戦への思いを心に刻み、「国際平和を希求」していこう。                           

2023年5月3日
『週刊金曜日』発行人兼社長 植村隆

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映画「The Son/息子」

青年期に起きる急性うつ病で苦しむ息子を抱え、混乱する家族の愛情と葛藤を描く

 青春期に揺れる青年(高校生)が親との葛藤に苦しみ、急性うつ病と診断されるが、本人も周囲も理解できず、対立と混乱の中で家族が悲しい情況に追い込まれる物語。
 弁護士の主人公ピーターは再婚した妻と赤ん坊と共に充実した日々を過ごしていたが、前妻ケイトから、彼女のもとで暮らす17歳の息子ニコラスの様子がおかしいと相談される。息子は不安定な感情を抱えており、母を非難しピーターのもとに引っ越したいと懇願する。息子を受け入れて一緒に暮らし始めるピーターだったが、転校したはずの高校に登校していないことがわかり、父と息子は激しく言い争う。父親として息子にセラピーを受けさせたりしながら、対処しつつ全て良い方向にむかうと信じるのだが、元妻は息子の言動に不安を抱き続けている。
 ピーターの新妻ベスは、ニコラスのマットレスの下から、ナイフをみつけ夫に見せる。驚愕したピーターはナイフを隠し持っていた理由を聞くと、息子は護身用と言いますが、ピーターは必要ないはずだと言い、逆に息子はバスルームに置いてある銃は何のためか聞き「昔、父親から貰ったものだ」と答える。
 息子の腕にある傷を見つけ、自傷行為をする理由を問いただすが、息子は「生きている実感がなく、自傷し苦痛を感じる時だけ唯一、生きていることを実感する」と語る。息子の気持ちがまったく理解できない父親は息子に二度としないよう厳しく言い、息子が傷つくと自分も傷つくとなだめるが、ニコラスはピーターの行動が母のケイトと自分を傷つけたと反論してくる…。
 そんなタイミングで知人の上院議員が大統領予備選に出馬することになり、その参謀チームに誘われ度々、ワシントンDCに出張するなど極めて忙しくなる。そんな折りにピーターは疎遠だった父親が病気と知り、気がかりになり出張の帰りに父親を訪ねるが、お互いに険悪な会話となり、ピーターは40年前、多忙を理由に病気で死の床に臥した母親を一度も見舞わなかったと非難することに…。
 ピーターと新妻は友人のパーティーに行くことになり、ベスは久しぶりの外出に喜んでいたが、赤ん坊の世話を任せられる人間もNGとなるなど直前にトラブルが続き、苛立つ状況で、息子ニコラスが赤ん坊の世話をすると言い出すのだが、ニコラスの行動に不安を感じていたベスは拒絶。そうした状況で、息子のニコラスは不安な感情をコントロールできなくなり、再び自傷行為を起こし、病院へ搬送され、そこで医師から“急性うつ病”だと診断を受ける。
 医師は、両親の対立が原因で発症している故に、すぐに面会できないと告げる。心配しながらも態度を決めかねる父親と母親。ようやく面会した折り、医師は専門家による治療に時間をかけるべきと入院の継続を勧めるが、ニコラスは病院が劣悪な環境で余計におかしくなると主張、帰宅させてほしいと懇願する。医師は「精神的な病気は“愛”だけでは治せない」と語り、未成年の入院には保護者の了解が必要だと、ニコラスの安全のためにも同意すべきと説得を試みるが…。
結局はピーターの家に元妻ケイトと3人で帰り、ニコラスにとって久しぶりの3人家族に戻り、穏やかな空気が戻ったように見えた時、息子は「久しぶりにシャワーを浴びる」と言ってバスルームに行くが、その直後に銃声が響く。
 そして4年後、若妻ベスと幼児と共に暮らすピーターの心には、深い傷が残ったまま…。一瞬、玄関から息子ニコラスが入ってきて自分の小説を出版したと語る場面になるのだが、それは幻想でしかなかった。
 初監督作「ファーザー」(2020年)で第93回アカデミー脚色賞を受賞した映像作家・劇作家のフロリアン・ゼレール監督が、ヒュー・ジャックマンを主演に迎え、「家族3部作」の2作目で、ゼレール監督の戯曲「Le Fils 息子」を原作に親と子の心の距離を描き出し、どこにでも起きうる悲劇を伝え、心に響く。「ファーザー」のアンソニー・ホプキンスが共演者として、主人公の厳格なる父親として登場し、存在感を残す。
[2022年/123分/イギリス]【原題「The Son」】〔2023年4月17日封切、順次全国公開〕 

| 映画情報 | 14:47 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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映画「ザ・ホエール」

今年のアカデミー賞主演男優賞を得た、苦悩と葛藤を抱える男の5日間を描く秀作
舞台劇を元にした、5人だけの登場人物による会話の中から浮き彫りとなる人間関係の光と影 

 自分の顔を出さずにリモート授業をしている大学講師の中年男性チャーリーが主人公で、言わば引きこもり状態。体重272kgという異常な巨体で、自分の住居の中での移動もままならぬ身で、トイレに行くのも困難、携帯電話を床に落とすと拾うにも一苦労。しかも血圧が「ステージ3」という危険に高いレベルだから、時折、面倒を見に来てくれる東洋系の女性看護師リズにも度々、警告されているのだが…。なぜ、彼はこんな状況を自ら生み出してしまったのか?そのプロセスと原因が、部屋を訪れる面々との会話から、主人公の辛く悲しい日が浮かび上がる…。
 新興宗教組織の若い宣教師、疎遠だったが母親との折り合いが悪い高校生の娘、物語の最終盤で現れる元妻を含めて、わずか5人の登場人物による、月曜日から金曜日までの5日間の時間の流れの中で、観客に伝えられるのは、妻子を捨ててまで一緒に暮らした同性の恋人への愛情の深さ、その他界してからの悲嘆と絶望である。室内だけで進行するドラマだが、主人公の言葉は会話の強烈なインパクトで観客の心に響いてくる。
 主人公が若者や娘に語って聞かせるのは、心酔しているメルヴィルの小説「白鯨」の名文であり、それが彼の喪失感や、8歳の時に捨てられたことを恨む娘への愛しさ溢れる心情に重ねられていく…。
主人公は重い心臓病かつ過食症であり、娘は薬物依存、元妻はアルコール依存、哀しみを抱えた看護師は実の兄が主人公の恋人であったことなど、辛い現実と人間関係が垣間見えてくる。
 映画の元となったのは舞台劇であるが、この戯曲を映画化したのは、名作「ブラック・スワン」(2010年/主演のナタリー・ポートマンが熾烈なトップ争いで精神を病んでいくバレリーナの物語)を生んだダーレン・アロノフスキー監督である。緊迫したドラマの合間にわずかに映し出される、主人公の記憶の中で輝く海辺のシーンが印象的。
 主演は、今年のアカデミー賞主演男優賞を獲得したプレンダン・フレイザーで、筆者も全く知らなかったが、かつてアクションスターとして知られていた人とのこと、今回、見事な演技力で復活を果たしている。映画の中の巨体は秀逸なるメイクの為せる技であるが、その生々しい迫力は見事。アカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞も受賞している。
[2022年/117分/アメリカ]【原題「The Whale」】〔2023年4月7日封切、順次全国公開〕
             [一般社団法人 障害者映像文化研究所 常務理事 中橋真紀人]

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