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障害者映像文化研究所

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映画「ニトラム」

凄惨な事件の背景とプロセスをクールに描いた秀作が、観る者の胸に響く!

 オーストラリアの美しい島で起きた悲しい無差別銃乱射事件(1996年)の映画化である。主人公は、本名のMARTIN(マーティン)を逆さにするとニトラム(シラミ持ち)となるあだ名を付けられたADHDの青年であり、時々に生ずる怒りを抑えきれず、数多くのトラブルを起こして、老いた両親も手を焼いている。
 ある日、芝刈りのアルバイトで少しでも稼ごうと近所を回る中で、隠遁暮らしをする元女優の裕福な中年女性と出会い、彼女のペットたちの世話や掃除を手伝ううちに気に入られ、そりの合わない両親の居る自宅を出て、彼女の家に移り住むことになる…。
普段は優しい性格なのだが、気に入らない事や、自分の思いつきがあると、衝動的な行動に走ってしまう。母親は息子の行動を見守るだけで、制御を諦めている。父親は、息子に手伝わせて海辺の宿を開設しようと、借金に奔走しているのだが…。母親と通う精神科医は、薬を与えると共に、母親の状況も心配しているけれど…。
 しかし、青年の不自由なき生活は、自動車事故による元女優の死亡で中断し、彼は孤独な暮らしに入る中で、「僕は僕以外になりたかった」という思いを秘めて、不安と葛藤を深めていく…。そして、周囲の異端視に圧迫される中で、女性の遺産の金で強力な銃器を幾つも手に入れ、危険な方向にのめり込んでいく… 。
 静かな田舎町で、主人公の抱える発達障害について、誰も理解できぬまま、事態は恐ろしい展開へと進んでいく… 。観客は、共感でもなく、冷淡でもない視点のドラマづくりに惹きつけられるだろう。
 映画のラストに表記される字幕では、オーストラリアにおける銃器の販売規制の甘さへの警告が語られ、この作品の本当の狙いが浮かび上がる。
 主演は『スリー・ビルボード』(2017)、『ゲット・アウト』(2017)などでハリウッドの注目を集めるケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、この役でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を獲得している。母親役のジュディ・デイヴィスは2021年度オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞主演女優賞受賞。監督は1974年生まれ、映画「マクベス」で評価を受けたオーストラリアの俊英ジャスティン・カーゼル、世界的大ヒットゲームを題材にした「アサシン クリード」も手がけている。
[2021年/オーストラリア/112分] 【原題『NITRAM』】 〔2022年3月25日封切、順次全国公開〕
                        [一般社団法人 障害者映像文化研究所 常務理事 中橋真紀人]
   
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劇映画「コーダ あいのうた」

美声を持つ娘が、聴覚障害者の両親と共に生きるファミリー・ラヴ・ストーリー

 サンダンス映画祭でグランプリ、監督賞、観客賞、アンサンブルキャスト賞の史上最多四冠を獲得した秀作は、聴覚障害者の家族を描いた物語である。(ちなみに、この映画祭は、1978年より名優ロバート・レッドフォードが主宰するインディペンデント作品の登竜門として知られる名門)
 ヒロインは高校生ながら両親と兄が営む漁業を手伝う中で、家族でただ1人耳が聞こえることから、家族の手話通訳係を務めるため、超多忙な日々を送っているルビー。新学期、憧れる男子生徒と一緒に過ごせるようにと合唱クラブに入った彼女は、顧問の先生に、その抜群の歌唱力を評価され、特訓も受けて音楽大学をめざそうという気持ちになっている。
 しかし、耳が聞こえない上に、漁師の仕事や生活に苦労しつつ、開放的な性格と言動の両親は、時に思春期のヒロインを悩ませてしまう。家族を支えようと思うヒロインだったが、彼女が不在の漁の折りに両親はトラブルを起こし苦境に追い込まれる。そうした状況でヒロインは、自分の道を追い求めるかどうか迷い苦しむが、そんな時、やさしい兄は「家族の犠牲にならず、自分の道を追え」と励ましてくれるのだ…。
 そして、合唱コンサートが開かれ、これに参加した両親は戸惑いながらも、娘の持つ歌声の力に気づき、それまで娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対していたが、これを支えようと姿勢を転換して…。
 原題の『CODA』とは Child of Deaf Adults の略語で、ろう者の両親を持つ子どもという意味であり、それゆえに抱える様々な問題が背景に浮かび上がる。
 耳が聞こえない家族の世界を描いているがゆえに、音楽とは対照的な「静寂」が効果的に使われているのが特徴であり、オリジナル企画(フランス映画『エール!』2014年)をアメリカのリメイク版とした脚本を担当し、監督にも起用された40代の女性映像作家シアン・ヘダーの手腕が見事である。元の映画の設定を生かしつつ、漁村の一家という構成に変えての展開と描写の中で、合唱音楽を生かしたエンターテイメント性の高い作品になっている。
 ヒロインを演じたのは2002年イギリス生まれのエミリア・ジョーンズで、数々の映画やテレビドラマで活躍中。演技力、歌唱力に加えて、習得した巧みな手話を披露している。母親役は、名作舞台『ちいさき神の、作りし子ら』を映画化した『愛は静けさの中に』(1986年)で主役を務めたマーリー・マトリン、史上最年少21歳、聴覚障害者で初めてアカデミー主演女優賞を獲得した逸材。父親役、兄役もデフ・シアターで経験を持つ聴覚障害者が演じている。本作で使われている手話はASLというもので、単語の置き換えではなく、創造的な表現力を持つ言語として知られているのだそうである。
[2020年/劇映画/アメリカ・フランス・カナダ合作/112分]【原題「CODA」】〔2022年1月21日に全国一斉公開〕

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映画「ダーク・ウォーターズ」

世界的なケミカル企業が人間をないがしろにした罪と闇を暴く弁護士の苦闘を描く力作
『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』

 各国の家庭に普及した「テフロン加工」が、人間の身体を侵し、ガンなどの病気を引き起こし、障害のある赤ん坊を生じさせていたという事実――それを訴えた市民に寄り添い、国際的企業を裁判で告発した弁護士の長く辛い闘いの姿を丁寧に描いた感動作である。その実話を、環境保護の活動家という一面も持つマーク・ラファロの主演・プロデュース、『キャロル』のトッド・ヘインズ監督で、社会派リーガル・ドラマとして成功させている。『レ・ミゼラブル』でアカデミー賞助演女優賞に輝いたアン・ハサウェイが主人公の最大の理解者であり元弁護士であった妻サラに扮して熱演。
 人命さえ脅かす化学物質の存在が身近な恐怖として描かれ、業界のために働いてきた企業弁護士が、立場を反転させて、大企業が金と権力で隠そうとする闇の中の真実を暴き出そうとする人間像は、現代にも重要な問題提起をしている。
 1998年、名門の法律事務所で働く企業法務弁護士ロブ・ビロットが、祖母の住む地域で農場を営む男から不思議な調査依頼を受ける。デュポン社の工場からの廃棄物によって土地を汚され、多くの牛を病死させられたと――深く考えず、嫌がらせに負けず資料開示を裁判所に求めたロブは、 “PFOA”という謎めいたワードを調べたことをきっかけに、事態の深刻さに気づく。デュポンは発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、その物質を大気中や土壌に垂れ流していた。やがて主人公は7万人の住民を原告団とする一大集団訴訟に踏みきる。しかし強大な権力と資金力を誇る巨大企業との法廷闘争は、真実を追い求める主人公を窮地に陥れていく……。
 主人公が農場を訪ねて見たのは、野生の鹿や家畜の牛が次々死んでいくと窮状と、動物が飲む川の水には泡が浮き、水中の石が変色した川底だった。知人であったデュポン社の顧問弁護士に頼み、すんなりと出た資料を読み込んでいくと、「PFOA」という謎の言葉に突き当たる。更に追及の姿勢を見せる主人公に対し、デュポン社の幹部は態度を豹変させ攻撃的な反応に…。裁判所命令で開示されたデュポン社の大量の内部資料のチェックに独り苦闘する主人公だが、科学者からの情報で、テフロン加工の化学物質の恐ろしさに気づかされる。その頃、農場主はガンに侵され、厳しい状況に追い込まれていた。
 想像を越えた危険な問題の本質に直面した主人公は、夜中に帰宅して、台所の鍋を処分しようとして、妻のサラを驚かせ、異常な態度に怒られるのだが、彼の語った真実を理解し、妻も共に闘う決意を固める。
 追及の手を緩めない主人公や住民に対して、デュポン社は、行政や政府の権力を巻き込み、次々と卑怯な方策で、責任逃れを図ってくる…。しかし、ようやくメディアも注目した「公害」報道により、主人公たちの不利な条件は変わってくる…。果たして、裁判闘争の行方は…?
 ひとつだけネタばらし――映画の最後近く、危険な化学物質による先天性異常で顔の一部に障害を持って生まれた赤ん坊が、元気な青年となっていて、本人が登場し、主人公と会話を交わすという場面があり、思わず感動するところを見落とさないで!
[2019年/126分/アメリカ]【原題「Dark Waters」】〔2021年12月17日より全国公開〕

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映画「梅切らぬバカ」

 「自閉症」の中年男性と母親の日常を描くなかで、地域に生きる障害者との共生を考える佳作

 都会の真ん中の自宅の庭で、母親のタマコさんに散髪される中年男のチューさんは、49歳の誕生日を迎える年だが、自閉症スペクトラム障害――その庭にある梅の老木の枝は金網を越えて脇の道路へとはみ出し、引っ越してきた隣家の旦那から迷惑がられている。
 チュー(忠男)さんは、いつも朝6時45分に起床し、トイレに入り、7時10分には「いただきます」と朝食を取る。そして母に頼まれてゴミ捨てをしてから、福祉作業所へ出かけて、紙箱づくりに精を出すという生真面目な日々を過ごしている。
 母のタマコ(珠子)さんは、自宅で手相を見る占い師をしていて、それなりの人気があるようだ…。平穏な暮らしが続いてきたが、ある日、彼がギックリ腰になったことで、母親の限界を感じ、「親亡き後」を憂い、彼のグループホーム入りを決断し、そのために動き出すのだが…。
しかし、ようやく入居したグループホームだが、住宅街の中にあるがゆえ、小さなトラブルも生じて、周辺の住民から「反対運動」を起こされてしまうのだ。
そんな折り、隣家の小学生の息子と仲良くなったチューさんは、2人で夜に近くの乗馬クラブのポニー調教場に忍び込み遊んでしまい、警備員に捕まり大騒ぎに…。
 老いた母親の抱える悩みと孤独ながらも生き抜いていこうとする粘り強さを、老練なるベテランの加賀まりこが爽やかに演じている(54年ぶりの主演という)。加賀は、プライベートで長年、連れ添うパートナーの息子が自閉症だと明かし、その経験から息子に感謝を伝えたくてセリフを追加してもらったと語っている。自閉症のチューさんを巧みに演じたのは、TVドラマでも活躍する塚地武雅(ドランクドラゴンというお笑コンビの相方/2006年の映画「間宮兄弟」で日本アカデミー賞新人俳優賞などを獲得し、2007年のTVドラマ版『裸の大将』の山下清役で注目を集め、最近はNHKの朝ドラ「おちよさん」でも話題に!)
 この作品は文化庁の映画作家育成プロジェクトの1つで、脚本・監督は1983年生まれ、和島香太郎。ネットラジオ「てんかんを聴く ぽつラジオ」(YouTubeとPodcast)を月1回のペースで制作・配信して、てんかん患者やそのご家族をゲストに招き、それぞれの日常に転がっている様々な悩みと思いを語っている人だという。自閉症男性の一人暮らしのドキュメンタリーに関わり、「自閉症を原因とする予想できない言動によって隣家とのトラブルから男性が地域の中で孤立している」事例に着目したのだそうだ。題名は『桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿』ということわざに因み、樹木の剪定には特性に合わせるべきで、転じて、相手の性格や特徴への理解の大切さを訴えているのだという。肩ひじ張らずに見る事のできる佳作で、こうした障害者の問題を知って考えてもらう良い素材になっている。
[2021年/77分]〔2021年11月12日封切、順次全国公開〕

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小説「虎を追う」

他人からは見えない障害が、誤解と偏見を生み、冤罪につながるという珍しい警察小説 現代のネット社会を突く!
番外編    サスペンス小説「虎を追う」

 獄中で亡くなった「殺人犯」の冤罪を疑う元刑事の真相追求ドラマ。その男は、トウレット症候群という分かりにくい障害を抱えながら社会の底辺を生きていたことが、物語の展開の中で明らかになる。
この障害は、脳の機能の障害により、本人の意思に反した筋肉の動きや、口汚い言葉(汚言症)のため、他人から粗暴な印象を持たれ、社会から阻害されてしまう事が多い。専門的には、ドーパミン神経の発達不全による異常な反応や行動というものだそうである。
 小説としては、次から次へと進展が気になる魅力的な中身である。30年前に起きた幼女の連続誘拐殺人事件で、被害者の子どもたちに凄惨な暴力が振るわれていた。逮捕された2人の犯人は死刑判決を受けて長らく獄中にあったのだが、主犯の男が病院で亡くなったという報道を受けて、当事、地元の県警の捜査一課に居た主人公は、真犯人の存在を感じていた。退職した今こそ、この事件の真相を追いたいと考え、世論にアピールする作戦を狙い、友人に相談し、ネットやSNSに詳しい孫に助けを求めると、更なる高度な知識とテクニックを持った親友――引きこもりの生活ながら、次なるステップを探していた――の参加を得る。不思議なチームが、真相究明に動き出すのだが…。
獄中にいる従犯の男との接触、弁護士や被害者の遺族との面談を通じて、事件の全貌が見えてくると、チームの疑念が膨らんでくる。
そして、獄死した主犯の男はトウレット症候群であった事が浮かび上がり、この障害が、生まれながら恵まれない環境のもとで育った男への誤解と偏見を拡大し、冤罪が作られていった事が浮かびあがってくる。
主人公の元刑事とITを駆使する高校生2人、これを支える友人たちの取り組みに、メディア関係者も加わって、明るみに出てくる真相の一端。
「ネット時代」、その功罪と明暗を、リアルに見せながら、真犯人の不敵な挑戦に応え、新たに起きた誘拐事件の救出に奔走するチームは、驚愕のラストに向かって、走り出していく❗作者の櫛木理宇という人は、これまでホラー小説を得意とするようだが、警察の捜査に疑いを感じ、己の正義感を信じて行動に出るという誠実さや、これをサポートする孫たちの活動を、巧みに描きだし、読者を魅了する。【作:櫛木理宇/2019年5月発刊】

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